配偶者居住権(民法1028条)を利用して税金対策するのは、簡単な話ではないと思ったこと。その2(2021.7.9)
−節税目的の配偶者居住権の設定は易しくない計算シミュレーションと詳しい同意書の保存が必要になるでしょう−
配偶者の死亡(や期間満了や建物の滅失)により配偶者居住権は消滅すると民法で定めているところから、その消滅したものには国税は課税を行わないと決めたところに着目して、この民法1028条の規定を使って相続税の負担を減らすスキームが専門家により考えられています。ただ、親族の状況は年々変わって行くことを分かっていないといけないと思います。
例えば、予定通りそのまま自宅が終の棲家になれば良いですが、そうならないかもしれません。介護の都合から、高齢者が終の棲家を自宅から有料老人ホームに変更する場合ってあると思います。その場合、相続人である配偶者が無償で子供に家を引き渡して居住権は放棄すると子供に告げたら、配偶者居住権等に対して、原則として、贈与税が課されることが相続税基本通達に載っています。課税の対象は家屋だけでなく、敷地利用権即ち土地も対象になってくるので、金額的に大きなものになります。土地に係る金額について、相続税の通達に何て書いてあるかと言うと「当該土地を当該配偶者居住権に基づき使用する権利の価額に相当する利益に相当する金額」となっていて、その税務上の具体的な計算方法は国税庁により発表されています。有料老人ホームに入居することが、仮に配偶者居住権の合意解除又は放棄には該当しないということであれば、贈与になりませんが、主張しても通用しない恐れがあります。では贈与税がかかるなら贈与は止めて、子供からお金を貰うことに変えたら、今度は配偶者に譲渡所得がかかります。ちなみに総合課税の譲渡所得だそうです。総合課税は累進税率です。
旦那様がお亡くなりになって10年20年経って奥様はご存命のことはざらにあります。配偶者や子供は配偶者居住権設定時のことを覚えていられるのかという心配が出て来ます。
配偶者居住権を設定しようがしまいが、家屋と土地の評価額の合計額は変わりませんが、配偶者が亡くなると配偶者居住権とその敷地利用権の評価額の分は節税になります。なお、設定するということはイコール一次相続時に子供が相続した分があることを意味し、それがゆえに一次相続と二次相続合計すると税額が少なくなっている計算になっているかもしれないことを考えてみるべきです。一次相続で配偶者が全部取得すると、そのときは税金がかからないが、二次相続の税額が大きくなるので、最初から配偶者と子供とで分けたほうが相続税が少なくなるというパターンです。子供が相続するのは配偶者居住権付き所有権ではなく、預金であっても同じことです。
物件が被相続人と共有、一部賃貸、土地は借地とでもなると、私なら税額の算定だけでも大変です。更に、大分先になるかもしれない二次相続までの計算と各規定の適用関係を説明されて理解納得できるかと考えると、配偶者居住権を税負担の減少目的で使うのは難易度高めの節税計画ではないかと思います。